コラム

2015.02.14

ID-POSによるペルソナ構築の意義


(1)ショッパーを捉えること

ここ2、3年「ショッパー・マーケティング」や「ショッパー・インサイト」に興味を持つ企業が多くなってきました。消費者調査だけでは顧客を捉えきれないという意識や現実があるように感じます。
モノが売れない時代となり、マーケティングリサーチの目的は多様化する消費者の嗜好をいかに捉えるかになりましたが、リサーチで調べた結果と実際の購買行動に違いがあるということはよく言われます。ドラッグストアやスーパーマーケットでの購買は関与が低く、店頭で意思決定を行うことが多いため「非計画購買」が70~80%と言われます。購買を理解するためには店頭の理解が不可欠となります。小売が発行する会員カードで購買データが安価で大量に取得できるようになったことも影響しています。
また、顧客を理解するためには、「ショッパー」と「コンシューマー」の違いを認識する必要があると考えられます。「ショッパー」とは、店頭で商品を選択し自分でお金を出して購入する人=ニーズを持っていて商品やサービスに対して価値を図る人と言えます。それに対して「コンシューマー」は商品を実際に消費する人=自分のニーズに対して満足を得られるかどうかの価値を図る人と言えます。お菓子を自分で食べるために買うならばショッパーとコンシューマーは同一ですが、子供のおやつを買う場合はショッパーとコンシューマーは異なります。子供が食べておいしいと思うかだけではなく、子供の健康のためにはどういうお菓子がいいかということも判断の材料となります。
このような問題意識から、店頭での意思決定の結果である購買実態=ID-POSでペルソナを構築することに意義があると考えました。

(2)ショッパーを理解するには

ショッパーを理解する上で、異なる購買時点で様々な顔を持つことを認識する必要があります。小嶋(1986)では「心理的財布」という概念を導入し、「消費者が異なる複数の財布をあたかも所有しているように行動し、購入商品やサービスの種類や、それらを買うときの状況に応じて別々の心理的な財布から払う」としています。それぞれの心理的財布は異なる価値尺度を持っています。同じ3000円でも、ドラッグストアで化粧品を買う時には高いと感じない人も、スーパーで買う食品への3000円は高いと感じることがあります。購買時点での心理状態を考慮する必要があります。
それぞれの業態を利用している顧客の年齢層も異なっています。ドラッグストアの客層で最も多いのは30代となっていますが、スーパーマーケットでは50~60代となっています。年代が異なれば収入の水準や家族形態も異なり、意思決定の基準に影響していると考えられます。
業態や立地の使い分けもあります。平日働いている女性会社員ならば、昼休みには会社近くのドラッグストアで菓子や飲料を買って帰宅時には会社近くや自宅近くの駅前のドラッグストアで化粧品やサプリメントを、週末は郊外の大型店で大きめな日用雑貨を買うというように店舗を使い分けています。食品についても、昼間は会社近くのコンビニエンスストアでお弁当を買い、帰宅時には近所のスーパーで食品や日雑を買うというような行動をしています。その時々に応じた購買行動を行っています。
ショッパーを理解する上で業態による商品の選択基準の違いがあると考え、ドラッグストアとスーパーマーケットそれぞれでペルソナの構築を行いました。ショッパーとして一括りにせず、業態別のショッパーを知る事により、従来よりもきめ細やかにアプローチすることが可能であると考えられます。

(3)ペルソナ構築の手順

ペルソナ構築するために、まず個人別の購買データをもとにクラスター分類を行いました。その際に用いた手法は前回のコラムでご紹介した「自己組織化マップ」になります。自己組織化マップを用いる利点は、

① 処理が高速である
② 2次元のマップに付置するので視覚的にわかりやすい
③ 固有値にもとづかないのでカテゴリー購買金額のように強い相関を持つデータでも分離能力が高い
④ 尺度の異なる多次元のデータを同一に扱うことができる

ということがあげられます。個人を多面的に評価するためには、来店状況や商品毎の購買動向など異なった形式の複数のデータを扱う必要があります。自己組織化マップは連続データや離散データ、カテゴリカルデータを同一に扱うことができます。
クラスター分類を行う際には常に、分類するクラスターの数が問題となります。自己組織化マップは2次元に格子状(または蜂の巣状)に付置するため、各軸の数を決めなければなりません。例えばX軸での数を4、Y軸での数を5と設定するとクラスター数は20となります。各軸での数を増やせばいくらでも細かく分類できますが、顧客のペルソナを構築するという目的があるため、解釈のしやすさを考慮しドラッグストアで10クラスター、スーパーマーケットで8クラスターとしました。
ペルソナは「典型的な特徴を併せ持つ、代表的・象徴的な顧客モデルを作りあげる」と定義されます。もともとは、製品デザインやソフトウエア開発の現場で、どんな顧客がどのように利用するのか想像力を喚起するために架空の顧客像を指していたようです。従来のプロセスでは、定量的情報から顧客をセグメントし、セグメントされた顧客に対して定性調査を行い、複数の定性調査結果から共通の行動をグループ分けし、行動パターンを確定した後に、架空の顧客像をストーリー化します。ID-POSによるペルソナ構築では、顧客のセグメントを自己組織化マップを用いた定量的なアプローチで行い、顧客像・生活像・買い物意識像のストーリー化を定性的なアプローチで行いました。
実際にデータを読み込むプロセスでは、来店パターン、購買パターンの各変数を自己組織化マップを活用し、人物クラスターを行い更に類似性からクラスターの絞り込みを行いました。その後、人物描写や詳細説明に用いる会員属性や購買カテゴリーパターンを集計し、ペルソナ記述をワークショップ形式で行いました。弊社が昨年行ったフォーラムでは、ドラッグストアの買い物特徴から想定される「家族を大切にしている専業主婦」と「家庭と仕事両立主婦」の家庭状況・生活パターン・価格感度の違い、あまり語られることの少ないスーパーマーケットでの男性客の顧客像についてご紹介させていただきました。

 家庭大事賢い主婦:福永里香さん                     家庭と仕事両立主婦:中村恵子さん

家庭大事賢い主婦:福永里香さん       家庭と仕事両立主婦:中村恵子さん
※実際の人物ではありません

構築したペルソナをどのようにしてマーケティング活動に役立てるかが問題となります。数年前にペルソナを作ったが活用できていないというお話をメーカーの方からよく聞きました。意識や価値感の違いを把握することはできても、実際の商品や購買行動に落としこむことができないことが問題であると考えられます。ID-POSならば実際に買っている商品がわかるので、顧客の理解と商品提案の方向性を同時に行うことができます。弊社のフォーラムでは「男性用シャンプー」の拡販について、コミュニケーション戦略と売場展開についてプランをご紹介させていただきました。コンシューマーである夫ではなく、ショッパーである妻をターゲットとした施策立案を行っています。活用という面でもID-POSによるペルソナ構築は意義があると考えられます。

  具体的活用イメージ1              具体的活用イメージ2

具体的活用イメージ1             具体的活用イメージ2
新しいターゲット:福永里香さん       福永里香さんへのコミュニケーション

(4)ペルソナを構築するメリット

ID-POSによってペルソナを構築するメリットとして、それぞれの顧客のデータに帰れるという点があります。ペルソナを読み込んでいる時に知りたいことがあれば、顧客のデータを見ることで解決できることが多くあります。ペルソナから立てた仮説を検証する上でも、顧客のデータを活用することが有効となります。
またもう一つのメリットとして、

① 自分達にとって最も大事な顧客を知る
② 顧客のインサイトが把握できる
③ 社内でのベクトルが統一できる

があげられます。顧客を知るということはもちろん大事ですが、ペルソナを構築する段階を社内で共有することで顧客に関する考え方や意識を統一できるというメリットがあります。外部からの分析結果を受け取るのではなく、ペルソナ構築のための共同作業によるプロセスの共有と意識の統一が大切であると言えます。

参考文献
小島外弘(1986), 「価格の心理―消費者は何を購入決定の“モノサシ”にするのか」, ダイヤモンド社
杉本徹雄(1997), 「消費者理解のための心理学」, 福村出版
ジョン・S・プルーイット, タマラ・アドリン(2007), 「ペルソナ戦略―マーケティング、製品開発、デザインを顧客志向にする」, ダイヤモンド社
棚橋弘季(2008), 「ペルソナ作って、それからどうするの? ユーザー中心デザインで作るWebサイト」, ソフトバンククリエイティブ
ジェラルド・ザルトマン(2005), 「心脳マーケティング 顧客の無意識を解き明かす」, ダイヤモンド社
桶谷功(2005), 「インサイト」, ダイヤモンド社
小阪裕司(2009), 「『買いたい!』のスイッチを押す方法 消費者の心と行動を読み解く」, 角川書店