コラム

2015.02.17

ポジショニング・マップとその活用

ブランド・ポジショニングは、ターゲットとする消費者が自社及び競合ブランドをどのように認識しているかを探ることが目的となります。どのブランドと強く競合しているのか、どのポジションに新たなマーケットの可能性があるのかを知ることができます。

(1)属性アプローチ
属性アプローチでは、製品やサービスへの満足は製品が持つ属性により生じると考えます。パソコンの場合ならCPU、メモリ、ブランドといった製品属性の束が満足を与えていることになります。それぞれの属性に対する評価基準に照らし、考慮している属性評価の合計が製品の評価となります。製品そのものではなく製品属性を考慮することで、各製品の比較評価が可能となります。

フロー

属性アプローチ:古川一郎他(2011)

(2)ポジショニング・マップ作成のためのデータと手法ポジショニング・マップを作成するためのデータは大きく「定性データ」と「定量データ」に分けられます。定性データはアンケート等により調査を行い、「ブランドの類似度」、「製品属性による評価」、「強制スイッチ」を調べます。定量データはPOSによる「バスケット単位での併買」や、ID-POSによる「期間併買」や「ブランドスイッチ」のデータを利用します。ID-POSを用いるメリットとして、データ入手のしやすさ、分析対象となるブランド数に制約が(あまり)ない、個人が特定できるのでどのような生活背景(購買実態による把握)を持つ人か知ることができる点があげられます。

フロー2

<データと手法の例>
ブランド類似度:調査対象となるブランドから2つを取り出し、2つのブランドがどの程度似ているかを質問し、ブランド間の類似度行列を作成します。多次元尺度構成法(MDS)等で分析します。製品属性評価:製品を評価する際に重要な属性について、そのブランドがどの程度当てはまるかを質問し、ブランド×人×評価の三相データを作成します。評価が5段階や7段階の場合は因子分析(注1)等が、01評価の場合はコレスポンデンス分析がよく用いられます。

強制スイッチ:どのブランドが最も好きかを選んでもらい、そのブランドがなかった場合はどのブランドを選ぶかを質問してブランドスイッチ行列を作成します。
バスケット併買:POSデータはバスケットごとにレシート番号が付与されているため、どの商品が同時に購買されたかを知ることができます。その情報をもとに併買行列を作成し、MDS等で分析します。

期間併買:ID-POSでは人の識別ができるため、ある人が期間内にどのブランドを購買しているかを知ることができます。多くの商品では「あるブランド」と「競合するブランド」が同じバスケットに入ることは少ないためブランド間の競合関係を知ることは難しいですが、ID-POSで期間内の併買行列を作成することで競合関係をより明確に知ることができます。分析にはMDS(注2)等が用いられます。

ブランドスイッチ:ID-POSではあるブランドを購買した後にどのブランドを購買したか把握できるので、ブランド間のスイッチをカウントしてスイッチ行列を作成します。分析にはMDS(注2)等が用いられます。

注1:本来は三相データとして分析しなければなりませんが、実務的にはブランド×評価のデータを並べて二相データとして因子分析をすることがよく行われます。
注2:期間併買やブランドスイッチはデータとして非対称になります。ブランドAからブランドBへの併買やスイッチとブランドBからブランドAへの併買やスイッチは同じではありません。そのようなデータをMDSで分析するためには、非対称MDSを用いる必要があります。

データ分析の結果を下記のようなプロット図で表現することがよく行われます。①プロット図上での距離によってブランド間の競合関係の把握を行う、②製品改善の方向性を検討する、③新商品開発の市場機会を探す、等で利用されます。

フロー3

鎮痛剤のポジショニング:G.L.アーバン他(1989)を一部改変

(4)商品改善のためのポジショニングと選好回帰
ポジショニングによりブランド間の関係を把握することはできますが、製品を改善するための具体的な方向性を検討するために選好回帰が用いられます。ポジショニングの結果と対象者の選好を用いて回帰分析を行い、消費者の好みがどの方向(もしくはどの座標)にあるかを調べます。下記の図は弊社での分析例をイメージ化したものですが、アイテム単位での分析を行なっています。アイテム単位で分析を行うことで製品属性との関係が把握しやすくなるため、改善案の立案がしやすくなります。
ブランドのイメージを把握するためにはアンケートによる分析を、製品改善のために方向性を検討するにはID-POSを使ったアイテム単位の分析というように、目的に応じて手法を使い分けることが有用と考えられます。

フロー4

参考文献
G.L.アーバン他(1989), 「プロダクトマネジメント」, プレジデント社
朝野煕彦(2010), 「最新マーケティング・サイエンスの基礎」, 講談社
古川一郎他(2011), 「マーケティング・サイエンス入門」, 有斐閣
岩崎学他(2006), 「統計的データ解析入門・線形代数」, 東京図書
中山慶一郎(2009), 「対応分析によるデータ解析」, 関西学院大学社会学部紀要
岡太彬訓他(2010), 「マーケティングのデータ分析」, 朝倉書店
新納浩幸(2007), 「Rで学ぶクラスタ解析」, オーム社
鈴木督久(1998), 知覚マップと選好回帰による市場セグメント

<コレンスポンデンス分析による同時布置の問題>
ブランドのポジショニングと製品属性や評価を同時布置する手法として、コレスポンデンス分析がよく用いられます。しかしマーケティング・サイエンスの分野で著名な朝野煕彦先生が指摘するように、コレスポンデンス分析の結果を解釈する際に問題が生じることがあります。下記の例では、「高級な」で最も多く答えられているのは「シャネル」となっていますが、コレスポンデンス分析を実行して2次元にプロットすると「シャネル」よりも「ルイ・ヴィトン」のほうが「高級な」に近くなっています。

このような結果が出る理由として、対象となるブランドの対象空間と、変数となる評価項目の変数空間が異なることが指摘されています。コレスポンデンス分析では対象と変数を集計したデータの次元縮約を行うために「特異値分解」を用いますが、特異値分解によって得られる対象空間の第1次元と変数空間の第1次元、対象空間の第2次元と変数空間の第2次元がそれぞれある相関を持って張られていることが示されています。手軽に利用できるソフトウエアが開発されることで簡単にデータ分析ができるようになりましたが、正しく使うためには理論を知ることも必要となります。

フロー5

ファッションブランドのイメージ:朝野煕彦(2010)