春の暖かさと殺虫剤売上の関係

こんにちは。流通気象コンサルタント・気象予報士の常盤勝美です。今年(2025年)は、梅雨真っ只中の6月中旬にもかかわらず各地で最高気温が35℃前後に達するなど、早くも猛暑となっていますね。近年は、夏が長くなり秋が短くなるとよく言われますが、カレンダーと実際の季節感が昔と比べて大きく変わっており、流通業界では商品の売れ筋を読むのが非常に難しくなっていることと思います。

今回は、春先の気温推移と殺虫剤部門の主要カテゴリの売上の伸び始めについて、昨年との比較を通して検証しました。

分析カテゴリ

今回は、弊社True Data の提供する購買データ分析ツール「Dolphin Eye」の中で区分されている「殺虫剤」の小分類から、「殺虫剤」「蚊取り線香」「虫よけ剤・虫よけ器」の週別購買データを抽出しました。

各カテゴリの売上推移

まずは、上述の3カテゴリの売上推移をグラフに示します。

  • 殺虫剤
図表1 殺虫剤の売上推移
  • 蚊取り線香
図表2 蚊取り線香の売上推移
  • 虫よけ剤・虫よけ器
図表3 虫よけ剤・虫よけ器の売上推移

3月から5月にかけての売上推移に注目すると、今回取り上げた3カテゴリ全てで、3月下旬から5月上旬にかけて、売上水準が昨年を下回る状態が続きました。

5月下旬の売上は、カテゴリによって多少の違いが見られ、「虫よけ剤・虫よけ器」は昨年をやや上回る、「殺虫剤」は昨年とほぼ同じ、「蚊取り線香」は昨年をやや下回る売上水準となりました。

当該期間の気温推移

以下に、抽出した購買データと同期間の気温の推移をグラフで示します。地点は、東京です。今年の3月下旬から4月上旬は、時期による気温上下の波が非常に大きくなりました。具体的には、3月下旬前半は平年を大幅に上回る気温となりましたが、3月下旬後半から4月上旬前半は平年を下回る“花冷え”となりました。その後は、昨年と今年でほぼ同じような気温水準の時期が多かったものの、4月下旬及び5月下旬は昨年より今年の方が気温が低めに推移しました。

図表4 最高気温の推移

考察

本来、殺虫剤の売上が大きく伸び始める時期である3月末頃に昨年を下回る気温が続いた今年は、その出だしをくじかれる形となり、5月上旬頃にかけても売上が昨年を下回る状態が続いた可能性があります。

特に、昨年記録的高温が続いたのに対して今年は気温が平年並か平年よりやや低めだった4月末は、売上水準が昨年を下回る幅が大きく、この時期の気温が殺虫剤の商戦にとって非常に重要である可能性が考えられます。

なお、今年の気温が昨年を大幅に下回った5月下旬において、殺虫剤の分類によって売上昨対比が異なるのは、その時期の殺虫剤の種類に対する消費者の関心や反応が影響しているものと考えられます。「蚊取り線香」はまだ売上のピーク時期が先であるため、5月下旬段階では低めの気温にそのまま反応して売上も低くなったと推測できます。一方、「虫よけ剤・虫よけ器」及び「殺虫剤」は売上のピーク時期に近く、消費者の関心が高かった可能性があります。そして、気温が低めだったにも関わらず売上が昨年並か昨年を上回ったのは、その時期、天候不順で湿度の高い日が多く、蚊の発生しやすい環境だった可能性が考えられます。

まとめ

今回は、シンプルに昨年と今年のデータを比較しただけなので仮説レベルではありますが、特に商品の売上が伸びていく時期においては、気温の影響を受けやすいタイミングとそうでないタイミングというものがあるかもしれません。さらに数年分の購買データを振り返ってより詳しい検証を行うと、その仮説の確からしさが分かると思いますので、ぜひ深く分析されることをおすすめします。

※抽出データ                                   株式会社True Data「Dolphin Eye」に搭載されている、「蚊取り線香」「殺虫剤」「虫よけ剤・虫よけ器」カテゴリ(業態:ドラッグストア、期間:2023年6月12日~2025年6月8日、データ抽出日:2025年6月16日)の週次の買物指数(買物指数は来店者100万人における購入点数)。

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株式会社True Data 流通気象コンサルタント 常盤 勝美
〈プロフィール〉
大学で地球科学を学び、民間の気象会社で約20年にわたりウェザーマーチャンダイジング関連サービスに従事。2018年6月、True Dataへ入社し、気象データマーケティングを推進。著書に『だからアイスは25℃を超えるとよく売れる』(商業界)など。気象予報士、健康気象アドバイザー。