メーカー企業のための気象&購買データ活用法       第11回 メーカーの取り組むべき天候リスクヘッジ

こんにちは。流通気象コンサルタント・気象予報士の常盤勝美です。これまで10回の連載では、商品の売上や企業の業績と気象条件との関係を分析する方法や、営業計画に長期予報の数字を取り込んでシミュレーションする方法などを解説してきました。そのテクニックを応用すれば、企業にとってネガティブな気象条件となった場合に発生する可能性がある損害額を見積もることができます。

特に季節(気温)による売上の上下幅が大きい商品を扱っている企業にとっては、どのような気象条件であれば、企業努力の中で吸収できる範囲か、どの範囲を越えたら企業努力だけでは吸収しきれないか、という評価のプロセスも非常に重要ですので、ここで改めて気象データと購買データの活用法について解説したこれまでの連載記事を読み返していただければ幸いです。

地球沸騰化時代が到来し、日々の天気変化でも“極端気象”と呼ばれるような異常な高温・低温・降水などの頻度が増え、今後はさらにこれらの現象の程度が甚大化し、頻度が増えることが見込まれます。過去には、大冷夏により海の家やサングラスを扱うメーカーが倒産に追い込まれるなどの事象もありました。企業内の努力だけではカバーしきれないほどの気象現象に見舞われた場合、企業としての持続可能性の観点でどのような対応策を用意しておくか、これまで以上に重要視される時代です。

今回は、その課題に対する一助として、これまでと少しだけ毛色を変え、天候リスクヘッジに関する解説をします。

天候リスクヘッジの取組の意義

気候変動がここまで注目される前の時代は、業績の悪化や売上の低迷の要因として、天候不順が取り上げられることが多く、株主側も確かに仕方がないことと納得していた部分があります。しかし近年、気候変動による業績のブレが大きくなりやすい環境下において、株主などステークホルダーとしても業績の安定化を求める思考が強くなってきており、その一環として、企業の気候変動対策の重要性が増してきています。

リスクヘッジ用の金融商品は大きく2種類

企業努力だけではカバーしきれないほどの大きな天候リスクは、金融商品によってヘッジするという方法があります。以下の2種類の金融商品に大別されます。いずれの商品も一長一短あり、どちらかがより優れているとは一概に言えません。それぞれのメリット、デメリットを以下にまとめました。いずれも基本的には損害保険会社が設計するものですので、より専門的な解説は、損害保険会社あるいはその販売代理を行う銀行など、付き合いのある金融機関に聞いていただくと良いでしょう。

  • ①異常気象保険

損失の発生など気象現象が主たる要因となった損害が発生した場合に、その損失に対して補填を行う商品です。

  • ②天候デリバティブ

気象条件と売上あるいは利益などの関係を事前に把握した上で、通常とは大きく異なる気象条件となった場合に、損失の有無や程度に関わらず気象条件の乖離幅に対して所定の金額が支払われるものです。

過去の事例

国内で最初の天候デリバティブ契約は、1999年に損害保険会社と、スキーをはじめとしたスポーツ用品メーカーの間で締結されたものといわれています。

スキーシーズン当初の12月に雪が少ないと、スキー場がオープンできない場合があり、スキー用品の売上に大きな影響を受けます。1月に入って雪が多く降れば、売上は取り戻せるものの時期的な問題で定価から値引きして売ることになるため、取り戻せる売上規模は限定的です。そのため、12月の少雪リスクに特化した天候デリバティブ商品が設計され、契約が行われました。

その後も、夏冬の気温の状況によって需要が大きく上下する電力・ガスなどのエネルギー関連企業や、季節イベント、イートインスペースを持たない外食チェーン、結婚式場など、様々な業種業態において、天候リスクヘッジ商品の取引が行われました。

まとめ

気象の状況が当該企業にとってポジティブだった場合は、契約金額の分だけ利益が目減りすることになりますが、その分業績は良くなっていたはずです。天候リスクヘッジ商品は、異常気象による損失を補填するだけでなく、気象の変化による業績の大きな上下を平滑化できることがポイントです。それが、近年のキーワードである持続可能性と言い換えることができます。気候変動の振れ幅がますます大きくなるこれからの時代において、企業が取り組むことができる選択肢の一つとして是非深く知っておいていただきたいものです。

次回は本連載の12回目、いよいよ最終回となります。地球温暖化時代のBCP(Business Continuity Plan)について、改めて考え、解説いたします。

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〇「常盤勝美のお天気マーケティングブログ」過去記事はこちら  https://www.truedata.co.jp/blog/category/weather_marketing

「メーカー企業のための気象&購買データ活用法」バックナンバーはこちら                 第一回 「意外と知らない!?業務に使える気象データ3選」                         第二回 「気象予報士が教える、長期予報の活用方法と行間の読み方」                     第三回 「長期予報に基づく売上の予測値計算法」                              第四回 「長期予報を活用したコストロスモデル」                              第五回 「今後の日本の気候はどうなっていくのか?」                            第六回 「大胆仮説!2050年の日本の天候」                                 第七回 「異常気象に備えるための心得とは」                                第八回 「ウェザーMDを利用した商品開発」                                第九回 「商品前線の活用」                                        第十回 「広告宣伝の効果と気象の影響の切り分け法」

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株式会社True Data 流通気象コンサルタント 常盤 勝美
〈プロフィール〉
大学で地球科学を学び、民間の気象会社で約20年にわたりウェザーマーチャンダイジング関連サービスに従事。2018年6月、True Dataへ入社し、気象データマーケティングを推進。著書に『だからアイスは25℃を超えるとよく売れる』(商業界)など。気象予報士、健康気象アドバイザー。