気象は、消費者の行動パターンや購買心理を動かす最も大きな外部要因の一つです。日々の天気や気温に応じて商品展開を工夫し、売上の最大化とロスの最小化を目指す「ウェザーマーチャンダイジング(ウェザーMD)」は、流通業界のさまざまな業務において長年取り組まれてきた手法です。
しかし、近年の気候変動や異常気象の常態化により、かつての平年値やベテランの経験と勘だけに頼った判断は、大きな機会損失や在庫過多を招くリスクへと変わりつつあります。本連載では、単なる気象データの解説にとどまらず、POSデータと掛け合わせた分岐点温度を軸に、流通における意思決定(製造・仕入れ・販促・在庫調整)の具体的な判断基準を解説していきます。
今回は連載の初回として、分岐点温度の分析や計画策定でよく用いられる平年値や前年実績を活用する際のポイントをご紹介します。
「平年値」はその土地の気候の特性を知る通信簿
「平年値」とは、過去30年間(現在は1991~2020年の30年間)の観測データの平均値を基に算出されます。

その土地や季節における天候の特徴、移り変わりの傾向、発生リスクの高い気象災害などを把握する上で非常に重要な指標であり、いわばその土地の通信簿とも言える存在です。マーケティングの世界で応用するにあたっても、平年値は各種企画やイベントの全体スケジュールを確認する上で欠かせないベースとなります。
一方で、近年の気候変動により、「夏の訪れが早い」「秋が短く感じる」といった体感の変化や、週ごとの急激な寒暖差も増えてきました。平年値はあくまで過去の平均的な流れを示した基準だからこそ、目先の実際の天気と組み合わせて柔軟に調整していく視点が大切になります。
「前年実績値」を振り返るときに意識したいこと
もう一つ、気象マーケティングの実践にあたって意識しておきたいのが、「前年実績値」の活用です。前年同時期のデータを参考に当年の計画を立てたり、実績を検証したりすることは一般的かと思います。しかし、前年に何らかの異常気象が発生していた場合、それをそのまま基準にしてしまうと、当年の需要を過大または過少評価してしまう懸念があります。前年のデータをそのまま当てはめるのではなく、「前年は天候の影響でこう動いたけれど、今年はどうか」と一度立ち止まって検証してみることが大切です。
「分岐点温度」分析がもたらす、根拠ある安心感
そうした日々の具体的な判断(意思決定)を支えるために役立つのが「分岐点温度」という考え方です。
分岐点温度とは、気温に対して商品の需要傾向に大きな変化が生じる指標のことです。ID-POSなどの購買データと気象データを照らし合わせることで、「気温が◯℃になると、この商品の需要にスイッチが入る」あるいは「気温が◯℃になると、この商品の需要が縮小し始める」といった目安が、客観的な事実として見えてきます。
- 平年値:季節の大まかなスケジュール感をつかむ
- 分岐点温度: 〇℃になったら仕込みや展開を始める」という具体的な判断の基準にする

平年値で全体の流れを描き、週間予報の中で分岐点温度と照らし合わせて最終的な意思決定を行う。感覚的な予測ではなく客観的なデータを根拠にすることで、確信をもって業務を進められるようになります。
次回からは、清涼飲料やアイス、生鮮、日用品など、具体的なカテゴリごとに需要が切り替わる分岐点温度のリアルなポイントと、現場で活用できる判断のヒントを丁寧に解説していきます。
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株式会社True Data 流通気象コンサルタント 常盤 勝美
〈プロフィール〉
大学で地球科学を学び、民間の気象会社で約20年にわたりウェザーマーチャンダイジング関連サービスに従事。2018年6月、True Dataへ入社し、気象データマーケティングを推進。著書に『だからアイスは25℃を超えるとよく売れる』(商業界)など。気象予報士、健康気象アドバイザー。

