目薬、鼻炎用薬の購入金額から見る、花粉総飛散量の昨年との違い

こんにちは。流通気象コンサルタント・気象予報士の常盤勝美です。毎年春先になるとスギやヒノキの花粉症に悩まされる人が多いのではないでしょうか。スギ・ヒノキのシーズン中の総飛散量は、直前の夏の天候の影響を受けるといわれています。花粉を飛ばす雄花の花芽の生育に影響を与えるためです。また、花粉シーズンに入ってからの日々の飛散量も当日の気象条件の影響を受けます。雨が降れば花粉が雨粒によって落とされてしまうため少なくなります。また風の影響は気温の影響を受けることもあります。スギ・ヒノキ花粉症対策商品もお天気マーケティングにおける重要なテーマの一つなのです。

そして今年(2021年)、例年より花粉の飛散が少なかった昨年(2020年)より花粉の総飛散量が多くなる予想でしたが、実際のところはどうだったのでしょうか?環境省から全国での調査結果が発表されるのは例年12月ですので、その前に今年の目薬、鼻炎用薬の売上データから考察してみます。

目薬、鼻炎用薬の購買動向

まずは現象として、目薬、鼻炎用薬の購入数が季節とともにどのように変化していくか、1年間の時系列グラフでその傾向を確認します。

図1 目薬(左)と鼻炎用薬(右)の買物指数の推移
※抽出データ:全国エリアにおけるカテゴリ「目薬」と「鼻炎用薬」の週次の買物指数。抽出期間は2020年1月6日~2021年1月3日。
(出典:True Data 「ドルフィンアイ」/業態:ドラッグストア)

両カテゴリともに2月~3月にかけて買物指数の大きな高まりが見られ、花粉症対策用に購入されているものと考えて間違いありません。2020年の例ですが、スギ・ヒノキ花粉症シーズン以外の平均的な買物指数と比べたシーズン中の買物指数ピーク時の跳ね上がり率が、目薬は2倍に届かないのに対して鼻炎用薬はおよそ6倍に達しています。いずれにしてもスギ・ヒノキ花粉シーズンに店舗での在庫切れは避けたいところです。

昨年と今年の目薬、鼻炎用薬の買物指数の違い

今回は、スギ・ヒノキ花粉症対策商品として購入されている目薬、鼻炎用薬の、昨年と今年の買物指数の違いを調査しました。これらのカテゴリの購入数が多い→花粉症の症状を感じている人が多い→花粉の飛散量が多い、という仮説が立てられます。昨年と今年の買物指数の違いを調べることで、スギ・ヒノキ花粉の総飛散量が今年、昨年に比べてどの程度多かったか、少なかったか大まかに見積もることを試みます。

表1は、ドラッグストアでの目薬、鼻炎用薬の購買傾向について、地域別に2021年と2020年の買物指数ピーク値の比率をまとめたものです。例えば九州での目薬は1.683となっています。これは2020年に最も買物指数が高かった週と比較し、2021年に最も買物指数の高かった週の比率が1.683倍だったという意味です。

なお、林野庁のHP※1によると、北海道ではスギの人工林面積が少なくしかも道南地域が中心であること、ヒノキはほとんど見られないことから、スギ・ヒノキ花粉症対策として目薬や鼻炎用薬を購入する割合がそれほど多くないと考えられます。今回は北海道を除いた地域でデータを見てみます。

※1 https://www.rinya.maff.go.jp/j/sin_riyou/kafun/data.html

各地域とも、鼻炎用薬のほうが目薬に比べて値が大きくなっているのは、前段落で解説したとおり、シーズンピークでの平常時に比べた跳ね上がり率が鼻炎用薬のほうが大きいことによるものと考えられます。表1を見て分かるポイントを以下に箇条書きでまとめます。

表1 地域別、目薬と鼻炎用薬の2021年の買物指数(ピーク週)の昨年比
※抽出データは図1と同じ。抽出期間は2020年1月6日~2020年4月5日及び2021年1月4日~2021年4月4日。

各地域とも、鼻炎用薬のほうが目薬に比べて値が大きくなっているのは、前段落で解説したとおり、シーズンピークでの平常時に比べた跳ね上がり率が鼻炎用薬のほうが大きいことによるものと考えられます。表1を見て分かるポイントを以下に箇条書きでまとめます。

 (1)花粉飛散総数は昨年より多かったと考えられる

表に示した比率は、全ての地域で1以上でした。地域によって程度の違いはありますが、いずれも昨年より今年の方が飛散総数は多かった可能性が高くなっています。

 (2)目薬、鼻炎用薬いずれも、比率が最も高かったのは四国

地域別にみると、目薬、鼻炎用薬いずれも、比率が最も高かったのは四国でした。花粉の総飛散量も、四国が昨年と比較して増加率が最も大きかった可能性があります。

 (3)今年は西の地方ほど、昨年と比べて花粉の総飛散量が多かった?

本州の各地方では、北に行けば行くほど、表1に示した比率が小さいという結果になりました。仮説として今年は、西の地方ほど昨年と比べて花粉の総飛散量が多かった可能性があります。

なお、本結果は昨年との比較です。例えば過去10年間の平均的な総飛散量と比較して今年は多かったかどうかの議論はできません。また、地域Bが地域Aと比べて比率が大きかったからといって、地域Bのほうが地域Aよりも実際の総飛散量が多かったとは限りません。

検証しましょう

今回示したのは、購買データに基づく花粉の総飛散量の昨年との比率に対する推定です。詳細な検証は、スギ・ヒノキの総飛散量に関する実測データに基づいて行う必要があります。

当年のスギ・ヒノキ花粉の実測総飛散量は、その年の12月下旬頃、環境省から調査結果が報道発表※2されます。目薬・鼻炎用薬の購入数と、スギ・ヒノキ総飛散量がどの程度連動しているかご確認ください。もし購入数の伸びに対して花粉総飛散量の伸びがあまり連動していない場合は、仮説として立てた「目薬・鼻炎用薬カテゴリの購入数が多い→花粉症の症状を感じている人が多い→花粉の飛散量が多い」の前提以外の部分で何らかの要因が関与した可能性があります。

想定される要因は、新型コロナウイルス感染拡大にともなう消費行動です。昨年この時期から既に新型コロナウイルス感染拡大に伴う通常と比べて消費行動の変化は起きていました。それだけでなく昨年は3月(2日)から全国の学校で一律に休校措置が取られました。今年は昨年と比べて1日当たりの新規感染者数が多いものの、全国での休校措置が取られていないなど、違いもあります。その違いは多少影響している可能性があります。

※2 昨年度の調査結果はこちら(http://www.env.go.jp/press/108865.html

消費行動は予測として発表される情報に基づく

もう一つ、花粉の総飛散量の実測データと購入数データが必ずしもぴったり連動しない要因として考えられることがあります。それは、実際の花粉の飛散量に関わらず、事前に各機関・団体などから発表される予測情報に基づいて消費者が購買行動を取ることがあるということです。

これは気象情報についても言える場合があります。例えば、太平洋側の地方での大雪や大型台風接近など、人々の日々の生活にとってマイナスの影響が出る懸念がある現象の予測については、消費者は予報に基づいて、備える行動を取ります。結果的にはその予報がはずれる場合もあります。大雪と予想されていたがほとんど降らなかった場合、台風の進路がずれて当地にほとんど影響がなかった場合などです。そのようなときでも関連商品の購入数が伸びることがあります。

花粉の総飛散量に関しても、関係機関が当初、どのような予測情報を発表していたか、一般消費者がどのような予想を主流として想定していたかを把握しておくことも重要です。

本ブログに対するご意見、ご感想があれば是非こちらまでお寄せください。可能な限り個別に回答させていただきます。

株式会社True Data 流通気象コンサルタント 常盤 勝美
〈プロフィール〉
大学で地球科学を学び、民間の気象会社で約20年にわたりウェザーマーチャンダイジング関連サービスに従事。2018年6月、True Dataへ入社し、気象データマーケティングを推進。著書に『だからアイスは25℃を超えるとよく売れる』(商業界)など。気象予報士、健康気象アドバイザー、地球温暖化防止コミュニケーター。