今年から「平年並」の基準が変わった! 変更に伴う注意点とは

こんにちは。流通気象コンサルタント・気象予報士の常盤勝美です。天気予報などで「平年並の陽気」と言われたとき、皆さんは何℃くらいの気温でどのくらいの暑さ/寒さを想像しますか。もちろん、地域によって、時期によって異なることでしょう。実は最近、その基準となる「平年」の値が変わりました。今回はその解説をします。また、それによって実際に流通業界にどのような影響が出る可能性があるか、注意事項をまとめます。
商品の販売データを細かく分析する際、気象条件との関係性を見るのは重要なアプローチの1つです。その関係がある程度定量的に評価できれば、需要予測や中長期のMD計画の精度向上に大きく寄与することでしょう。その中でその地域、その時期の平均的な度合いを示す基準となるのが平年値です。今回はその基準値が、近年の気候変動によって大きく変化しました。是非、流通業界の皆さまはじめ、幅広く知っておいていただきたいと思います。

平年値とは

気象庁の用語集によると、「平年」とは平均的な気候状態を表すときの用語となっています。気象庁では30年間の平均値を使い、それにさらに平滑化処理を加えて平年値を算出しています。つまりここ最近30年間程度の平均的な水準という意味合いです。ただし、どんどん時代は進んでいき、それに伴い平均的な気候の状態も変化していくため、西暦年の一の位が1になる10年ごとに平年値を更新しています。統計学的に評価してこの平年値に対して著しくかけ離れた値になった場合を「異常気象」と定義しています。

今回の平年値の更新概要

今年は西暦年の一の位が1なので、平年値の更新のタイミングです。今回は5月19日に平年値が更新されました。2011年以降使われていたこれまでの平年値は、1981年~2010年までの30年間の観測データに基づき計算された値でした。2021年5月19日以降適用されている平年値は1991年~2020年までの30年間の観測データに基づき計算された値となっています。平年値の更新にともない、具体的にどのくらいのレベルで値が変化したか、流通業界において一番なじみが深いと考える気温について、まず調べてみました。

図1 日本の年平均気温偏差(気象庁HPから引用し、期間を示す矢印を加筆)

今回の平年値更新による影響をデータの差分で考えると、1981年~1990年の10年間のデータが除外され、2011年~2020年のデータに替わったことになります。図1は日本の年平均気温のトレンドです。1990年代以降、それまでと比べて温暖化(高温化)が進んでいることがはっきりわかります。現在適用されている平年値を0とした場合の偏差が縦軸となっていますが、今回平年値の集計範囲からはずれた1980年代は1991年~2020年までの30年間の平均的な水準より0.5℃以上低く、約1.0℃低い年もありました。データが入れ替わった両期間(2011年~2020年までの10年間と1981年~1990年までの10年間)の差分をざっと見積もると、目見当ですが、ざっと年平均で1℃程度も違うように見えます。
参考までに、東京における最高気温/最低気温平年値の新旧データの差を年間時系列で並べてみました。それが図2です。

図2 東京における日最高気温(左)と日最低気温(右)の、新旧平年値の差分時系列

東京の観測点においては、最高気温、最低気温ともに、平年値が更新されたことによって従前に比べて値が低くなった期間はありません。全ての期間で従前同様か高くなりました。特に上昇幅が大きいのは7月1日前後です。最高気温の平年値は最高で1.1℃、最低気温の平年値は最高で1.0℃上昇しました。グラフには示していませんが7月は月間値で見ると、最高気温は0.7℃、最低気温は0.6℃高くなりました。なお、12月は平年値の上昇幅が比較的小さいようです。

平年値が変わったことによる注意事項は?

日頃の陽気を考えるとき、季節予報に基づいて今後の営業計画などを立てるときなど、平年値を使うことがあるかと思いますが、その際の注意事項を箇条書きでまとめます。

(1)“平年より高い”予報が減る可能性

予想される気温などの値が一緒であっても、昨年までは“平年より高い”のカテゴリだったものが、今年以降は“平年並”に、同様に“平年並”のカテゴリだった予報が“平年より低い”のカテゴリに割り当てられている可能性があります。つまり、特に気温に関しては平年値が上昇したことによって、“平年より高い”の発表頻度が少し減り、“平年並”あるいは“平年より低い”の発表頻度が増える可能性があります。ただし、今後もさらに地球温暖化の進行による急激な高温化が続けば大きく変化しない可能性もあります。

(2)“平年並”、“平年より高い”、“平年より低い”の感覚が変わる可能性

上記に付随する感覚的な現象ですが、これまでの“平年並”の陽気と、今後の“平年並”の陽気が違うと感じる人も出てくるかもしれません。「平年」が近年の急速な地球温暖化を反映するようになった現れでもありますが、その場合はあまり“平年並”の言葉に惑わされず、その時の気温、ご自身の体感的な陽気を基準に発注仕入れなどの業務を行うことをおすすめします。

(3)同じ値でも、昨年までと今年以降では平年差が異なる

あまり平年値との差だけでデータを評価することはないかもしれませんが、例えば2020年が平年より0.6℃高く、2021年が平年より0.2℃高いという結果が得られた場合、2020年のほうが気温が高かったかと言えば、必ずしもそう言えない場合があります。平年差だけで議論するのではなく、具体的な気温の値を見た評価をしましょう。

(4)梅雨入り/梅雨明け、サクラの開花日、初雪などの平年値も変わった

平年値を算出しているのは気温や降水量だけではありません。季節の訪れを知らせる便りや、台風に関するデータなどの中にも平年値が算出されているものがあります。代表的なものについて表1及び表2にまとめます。気候の温暖化に伴い、春夏を知らせるデータは前倒しに、秋冬を知らせるデータは後ろ倒しに変化していることがはっきり変わります。是非、注意してご活用ください。(参照:気象庁HP【梅雨入り/梅雨明け】【桜開花】【初雪】)

表1 各地方の梅雨入り/梅雨明けの平年日 新旧対照表

表2 主要都市の桜開花、初雪平年日 新旧対照表

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株式会社True Data 流通気象コンサルタント 常盤 勝美
〈プロフィール〉
大学で地球科学を学び、民間の気象会社で約20年にわたりウェザーマーチャンダイジング関連サービスに従事。2018年6月、True Dataへ入社し、気象データマーケティングを推進。著書に『だからアイスは25℃を超えるとよく売れる』(商業界)など。気象予報士、健康気象アドバイザー、地球温暖化防止コミュニケーター。