「寄せ鍋」と「キムチ鍋」。寒くなるほど売れるのはどっち!?

残暑長引いた今年の夏もようやく終わったといって良いのではないでしょうか。ようやく売り場も秋冬物一色に変わったという感じです。これからは、おでんや鍋物料理などが食卓での定番となることでしょう。

鍋つゆにも様々な種類があります。鍋物料理の種類によって、気温との関係が微妙に異なる場合があるのです。今回はその違いと違いが生じる理由について説明していきます。

図は、当社保有のPOSデータから「寄せ鍋」用の鍋つゆと、「キムチ鍋」用の鍋つゆの2カテゴリーを抽出し、それぞれ気温との関係を散布図で見たものです。

それぞれ、横軸は最高気温、縦軸は買物指数(※)を示します。今回は2つのカテゴリーの間に販売数の全体規模に違いがあったため、比較しやすいように買物指数の正規化という統計処理を行いました。具体的にはデータ対象期間である2016年9月中旬から2018年9月上旬にかけての2年間の週別データの中で最も買物指数が高かった週を100、最も買物指数が低かった週を0とし、それぞれ0~100の指数で表現したものを縦軸としています。

(※)「買物指数」はお客様(来店者数)100万人あたりの売上高や売上点数をあらわす当社の独自指標です。

図1 寄せ鍋つゆの買物指数と気温の関係   (橙色:8~1月の週別データ、水色:2~7月の週別データ)

図2 キムチ鍋つゆの買物指数と気温の関係  (橙色:8~1月の週別データ、水色:2~7月の週別データ)

図のプロットが2色になっていますが、これは季節の進みとともに気温が下がっていく降温期(8~1月:橙色)と季節の進みとともに気温が上がっていく昇温期(2~7月:水色)の違いです。全般に橙色のプロットの方が水色のプロットに比べて上に位置していて、買物指数が高いことを示唆しています。つまり同じ最高気温の条件であっても、春夏よりは秋冬のほうが買物指数が高くなります。ある意味これは当たり前のことですが、散布図で見るとこのようなプロットの形になります。

細かい部分でこの2つのグラフをよくよく見てみてください。一見ほとんど違いがないように感じるかもしれませんが、実は買物指数がピークを迎える温度にちょっとした違いがあります。

寄せ鍋の買物指数は10~15℃の温度帯あたりでピークを迎えており、それより低い温度では販売数の頭打ち傾向が見られます。それに対してキムチ鍋つゆは気温の低下に伴って単調に買物指数が増加しており、買物指数のピークは10℃以下の温度帯で迎えています。

これを季節感に合わせて言い換えるとすると、寄せ鍋つゆは寒さが一層厳しくなっても販売数は頭打ちの傾向だが、キムチ鍋つゆは真冬に向かって季節が進めば進むほど販売数が伸びる、ということになります。

この違いが生じる理由は何か、それこそがお天気マーケティングの真骨頂です。ポイントはそれぞれの料理が体に与える効果です。人はその料理を食べることによって得られる体への影響・効果を無意識に期待してそれを購買します。この2つは、得られる影響・効果が少し異なるため、最も需要の高まるタイミングが微妙にずれるのです。

それぞれの特性を分析してみましょう。寄せ鍋はしょうゆ仕立てで比較的さっぱりした味付けが一般的です。一方、キムチ鍋はキムチの辛味が強く、こってりとした味付けの場合が多いと言えるでしょう。栄養素レベルで考えた両者の大きな違いは、キムチ鍋つゆの持つ香辛料です。香辛料には新陳代謝を高める働きがあるため、摂取すると一時的に体温が高まります。夏のような暑い環境ではそれが発汗につながります。そもそも鍋物料理はその熱々の具材やつゆを食べたり飲んだりすることで体温を上げ寒さをしのぐ効果を期待する目的で冬場に好んで食べられるメニューです。香辛料の味付けが濃い鍋物料理は、それだけでなく、新陳代謝を高めることでさらに体温を上昇させる効果が期待されます。より冷え込みが厳しい(低温)環境下で好まれやすい傾向があります。

この考え方は色々な分野での応用が可能です。例えばこの冬は60%の確率でエルニーニョ現象の発生が予想されており、実際にエルニーニョ現象が発生した場合は過去の統計的傾向から日本の多くの地域において暖冬となる可能性が高まります。冷え込みのそれほど厳しくない気候が予想されるのであれば、キムチ鍋つゆの販売数が例年ほど伸びない懸念があります。キムチ鍋つゆの展開量を例年より控えめにするという選択肢もあるでしょう。苦戦を強いられるキムチ鍋つゆを精力的に展開したい場合は、香辛料+こってり感をあまり前面に押し出さず、マイルドな仕立てにする料理法やレシピの提案が有効と考えられます。ポイントは、その商品の持つ天候との関係性を把握し、からだへの影響まで一気通貫に考えられれば、天候予測情報の入手によって販売動向が事前にある程度予想でき、適切な対応が早い段階から策定できるということです。

何℃になったら何が売れる。寒いときに売れるもの、暑いときに売れるものなど、当然これまでの経験と実績に基づく知見は皆さんあることでしょう。でもその一見当たり前の消費動向を、「なぜ?」という観点から根拠立ててまじめに考えてみていただきたいと思います。

是非そんな勉強会を開催し、ご自身の担当する商品、新しく市場に投下する商品など、どのような気象特性をもち、どのようなからだへの反応があって、どのような売れ方をする特性をもっているのか、私と一緒に考えてみませんか。