「暑すぎると蚊がいなくなる」は本当か?

こんにちは。流通気象コンサルタント・気象予報士の常盤勝美です。今夏、「暑すぎて蚊がいない」という話題を耳にしませんでしたか。私は昆虫学の専門家ではないので詳しいことはわかりませんが、実際の購買データからそれを裏付けできないか調べてみました。

昨年と今年の、夏の天候

図1は、東京における昨年(2022年)と今年(2023年)の最高気温の週平均値のグラフです。昨年は6月下旬から7月上旬にかけて、梅雨明けを思わせる猛烈な暑さでした。その後も気温が平年並か高めの時期が多かったのですが、7月中旬や8月下旬は気温がやや低めの時期もありました。

それに対して今年は6月下旬頃から(北日本では5月下旬頃から)気温が平年を上回る状態がずっと続く、“途切れることのない暑さ”でした。特に7月中旬から8月は、最高気温の週平均値33℃以上が続きました。

そして昨年と比較しても、7月以降9月いっぱいにかけて、今年の方が気温の高い状態がずっと続きました。

図1 東京における2022年、2023年の最高気温週平均値の推移

用いたデータ

今夏の蚊の動向を類推するため、蚊取り対策商品の購買データを検証しました。具体的には「蚊取り線香」と「蚊取りマット・リキッド」のカテゴリです。これらのカテゴリの購買データにおいて、昨年と比較してどのような違いがあったか、グラフを見てみました。 なお「蚊取り線香」「蚊取りマット・リキッド」は気温と売上との間に強い正の相関があり、気温が高ければ売上も高くなることを前提としています。

「蚊取り線香」の購買実績推移

まずは「蚊取り線香」の購買データを図2で確認してみます。私が気になった点は大きく2つです。1つ目は、7月下旬頃~9月半ばにかけて、気温は昨年より高かったにも関わらず蚊取り線香の売上が少なかったこと。そしてもう1つは9月、季節の進みに伴い売上額が低下していった昨年に対し、今年は8月下旬頃と同水準かむしろわずかに高く、さらにその状態が9月末までキープされ、売上が低下していないということです。

図2 「蚊取り線香」の週別買物指数の推移

「蚊取りマット・リキッド」の購買実績推移

続いて「蚊取りマット・リキッド」の購買データを図3で確認します。「蚊取り線香」の買物指数推移グラフを見て気になった傾向がこちらでも確認されました。「蚊取り線香」のグラフに比べると昨年と今年の折れ線グラフが接近しており、両者の売上差がそれほど大きくないように見えますが、市場規模(グラフの縦軸)が異なるため、売上金額差で見れば「蚊取り線香」同様、注目すべき傾向と考えられます。

図3 「蚊取りマット・リキッド」の週別買物指数の推移

まとめ

今回の分析は前年との売上差の計算だけなので、考察も昨年と比較した蚊の活動レベルの違いに関する仮説でしかありませんが、タイトルに記した「暑すぎると蚊がいなくなる」という今夏の話題に矛盾のない結果が示されました。また、暑さのピークを過ぎたはずの9月に関しても、蚊の活動レベルが高かった可能性が見られました。地球温暖化を超えて地球沸騰化が進行するこれからの時代に向けて、是非参考にしていただきたいところです。

※抽出データ                                   株式会社True 株式会社True Data「ドルフィンアイ」に搭載されている、「蚊取り線香」「蚊取りマット・リキッド」カテゴリ(業態:ドラッグストア、期間:2022年3月28日~2023年10月8日、データ抽出日2023年10月18日)の週次の買物指数(買物指数は来店者100万人における購入金額)。

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株式会社True Data 流通気象コンサルタント 常盤 勝美
〈プロフィール〉
大学で地球科学を学び、民間の気象会社で約20年にわたりウェザーマーチャンダイジング関連サービスに従事。2018年6月、True Dataへ入社し、気象データマーケティングを推進。著書に『だからアイスは25℃を超えるとよく売れる』(商業界)など。気象予報士、健康気象アドバイザー。