こんにちは。流通気象コンサルタント・気象予報士の常盤勝美です。前回は、季節の推移に伴って購買動向の変化が起こる時期や地域を面的に捉えることができる商品前線について解説しました。今回は広告宣伝の効果検証にまつわるお話です。自社商品の購買動向変化の分析を行う際、広告宣伝が功を奏したのか、単に売れやすい気象条件だったか、広告宣伝効果がイマイチ判然としないことがあります。そこで、広告宣伝による効果と気象による効果を切り分ける方法の基本的な考え方を解説していきます。
購買動向を決める要因

図表1は、日々の商品の購買動向に寄与する要因を列記したものです。商品の購買動向は様々な要因の効果を足し合わせた結果で決まります。主な要因について簡単に解説します。
曜日は、小売店舗での来店客数に影響を与えるものです。誰もが予見できる要因であり、通常、各店舗での過去からのデータの蓄積や検証に基づき、曜日の係数は把握されています。なおデータを週次で見る場合は、曜日の影響は割愛できます。ただし月次で見る場合は、来店客数が多くなりやすい曜日が当月4回あったか5回あったかによって多少購買動向規模に違いが生じる場合があるため、念のため曜日の影響を考慮します。
ブランド力に関しては、定性・定量調査で消費者からのフィードバックを得ることでおおよその影響度合いを測ることができるでしょう。顧客属性まで細かく分析すれば、性別・年代別の影響度も把握できます。
価格や話題性に関しては、小売店舗での購買データを詳しく分析する必要がありますが、たとえば価格を変えた時期やSNSでバズった時期について、その前後の平均的な購買金額水準と比較すれば、影響度を推計することができます。
そうすると、影響度の推計が難しい主な要因は、気象と販促などと考えられます。ここで、販促と大括りに書きましたが、この中にはテレビやラジオでのCM、キャンペーン、小売りの現場でのPOP、マネキン、チラシ、クーポンなどが該当します。広告宣伝効果に関して、毎年同じ時期に同じ規模で同じ内容で実施するのであれば、ある程度その影響度は把握できるかもしれません。しかし広告宣伝の時期や規模、内容は都度異なることが多いでしょう。その場合、特に売上が気温に左右されやすい商品は、広告宣伝効果をある程度定量的に把握することが難しくなります。
広告宣伝と気象の効果の切り分け法
以下の手順で進めると良いでしょう。
- 商品の購買動向と気温の関係を定量的に把握するため、売上と気温の関係を示した近似式を求めます。詳しくは本連載の第三回「長期予報に基づく売上の予測値計算法」をご覧ください。ここで、商品の購買動向データは、広告宣伝を実施していない期間のものを使います。
- 効果検証を行いたい期間の気象データを、気象庁のホームページからダウンロードします。ダウンロードの方法は、本連載の第一回「意外と知らない!?業務に使える気象データ3選 」を参照ください。❶で求める近似式は週次のデータを用いるのがおすすめなので、ここでダウンロードする気象データも週次(週平均値)に加工します。
- ❷でダウンロードした週次の気温を、❶で求めた近似式に代入し、当該期間の購買動向の理論値を求めます。広告宣伝を実施していない期間のデータなので、この理論値も、気象の要因は加味されているが広告宣伝の効果は加味されていない値となります。
- 当該期間の実際の購買データと、❸で求めた購買動向の理論値の差分が広告宣伝効果と推定できます。
イマイチやり方が分からないという場合は、こちらまでお問い合わせください。
応用
上記の切り分け法は、広告宣伝効果だけでなく様々な応用ができます。例えば競合企業が類似新商品を発売したときの影響度、価格改定を行ったときの影響度などなどです。商品の購買動向と気温(気象)の関係を把握しておくことは非常に有効であると考えます。
次回は、営業サイドというよりは管理部門サイド的な取組として、保険商品を使った天候リスクヘッジについて解説いたします。
※気象庁ホームページについて 気象庁ホームページで公開している情報は、誰でも、利用規約に従って自由に利用でき、商用利用も可能です。出典の記載等の注意事項は下記の規約をご確認ください。 https://www.jma.go.jp/jma/kishou/info/coment.html
〇「常盤勝美のお天気マーケティングブログ」過去記事はこちら https://www.truedata.co.jp/blog/category/weather_marketing
〇「メーカー企業のための気象&購買データ活用法」バックナンバーはこちら 第一回 「意外と知らない!?業務に使える気象データ3選」 第二回 「気象予報士が教える、長期予報の活用方法と行間の読み方」 第三回 「長期予報に基づく売上の予測値計算法」 第四回 「長期予報を活用したコストロスモデル」 第五回 「今後の日本の気候はどうなっていくのか?」 第六回 「大胆仮説!2050年の日本の天候」 第七回 「異常気象に備えるための心得とは」 第八回 「ウェザーMDを利用した商品開発」 第九回 「商品前線の活用」
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株式会社True Data 流通気象コンサルタント 常盤 勝美
〈プロフィール〉
大学で地球科学を学び、民間の気象会社で約20年にわたりウェザーマーチャンダイジング関連サービスに従事。2018年6月、True Dataへ入社し、気象データマーケティングを推進。著書に『だからアイスは25℃を超えるとよく売れる』(商業界)など。気象予報士、健康気象アドバイザー。