こんにちは。True Dataの流通気象コンサルタント・気象予報士の常盤勝美です。小売業の皆さまへデータ活用法をお届けする本連載の第5回、季節・気象と絡めた販促という観点で、季節イベントにおけるチェックポイントをご案内します。
季節イベント・季節現象
日本では、自然に関わる観光資源や、それを活かしたイベント、またその時期に増えやすい疾病など、図表1にその一部を示したように、多種あります。

これ以外にも、日付固定のものとして、中秋の名月、土用の丑、流星群(ペルセウス座、双子座)、地域限定のものとして雲海、蜃気楼などもあります。
これらの季節イベントは、例年おおまかな時期は決まっていて、年間でも非常に大きな売上を作ることができる場合もあるものの、それまでの天候推移やその時の気象条件などによって関連商品需要の集中するタイミングがずれることがあります。それを当て込んで関連商品の特売企画を組んだり、発注仕入れ量を調整したりする場合、時期がずれれば大きな機会ロス、廃棄ロスにつながるおそれがあります。
季節イベント・季節現象関連特売を計画する際のチェックポイント
季節イベントのうち、植物が関わるものについては、その植物の生育状況など、それまでの天候推移の影響を受けることが多いので、計画段階時点での気候推移でシーズン中の商戦規模を推察する材料はある程度得ることができます。
たとえば、スギやヒノキの花粉であれば、直前の夏の天候との関係性が認められていて、それと表年/裏年の周期性を加味すれば、シーズン中の花粉飛散規模を見積もるヒントになります。また、環境省で毎年12月下旬頃、「スギ雄花花芽調査結果」を発表しており、その情報からも花粉の飛散規模をほぼ正確に予測することが可能ですので、ぜひ積極的に活用しましょう。
植物が関わらないイベントであっても、ピーク時期やその前期間を対象とした長期予報を参考にすれば、一番の需要ピークを迎えると想定される時期が、例年より早くなりそうか遅くなりそうか、ほとんどのケースで見極めることができます。
なお、事前予測が難しいものもあります。それは関東以西の太平洋側の地方を中心とした地域における初雪・大雪です。初雪・大雪時に発生する需要の集中は、非常に短期間に起きることでありながら、年によっては数週間から1か月近く時期がずれることがあります。このずれは長期予報では把握しづらいものです。次の「イベント時期が迫ってきたときのチェックポイント」の項目を参考にしてください。なお、北日本の日本海側など、雪の多い地域では毎年必ず事前に準備需要が始まるため、それほど顕著な需要の急集中は見られないケースがほとんどです。
イベント時期が迫ってきたときのチェックポイント
季節イベントに伴い関連商品の需要の集中が見られる時期が迫ってきたら、週間予報を積極的に活用して人の動きなどを予測し、発注仕入れ量の調整や売場づくりなどに活用します。
屋外で催されるイベントであれば当日の天気(雨や雪が降るか降らないか)や気温(寒い陽気/暑い陽気など)は非常に重要な要素となります。仮に天気によって当日のイベントが中止となった場合、別の日に切り替わるだけなのか、多くの人が集まる機会自体消滅してしまうのかで、店舗側の負うリスクの規模が大きく異なるため、特に慎重に判断します。
ただ難しいのは、仮に週末雨が予想されていたとしても、実際の雨に降ったのがイベントと関係ない時間帯であれば、イベントは無事開催できることになります。また、イベント時刻に雨が降っていたとしても、降り方がごく弱ければ、イベント主催者側の判断になりますし、場合によってはそこに利害関係者の意向が加味されることもあるでしょう。雨の降る細かな時間帯や雨の強さまでは、週間予報の段階で対象となっていないため、最終的なイベントの可否は前日発表の「あすの天気」あるいは当日朝発表の「きょうの天気」による判断となります。
イベントと特需の関連性をデータで確認
季節イベントの種類によっては、特定の関連商品の需要が一時的に急増することがあるので、周到に準備しておきたいところです。店頭展開のタイミングを間違うと大きな機会ロス、廃棄ロスにつながるおそれがあります。需要が急拡大するタイミングや規模、需要が継続する期間などは、購買データを時系列で示すことで確認すると良いでしょう。参考までに、大雪時の輸入豚の売上推移(図表2)と花粉シーズンの目薬の売上推移のグラフ(図表3)を示します。

※前日に気象庁から「大雪に関する注意情報」が発表され、2月10日の当日東京では積雪2㎝が観測された。2月9日に需要の急増が見られる。(出典:True Data「Eagle Eye」/スーパーマーケット)

※春のスギ・ヒノキ花粉の飛散に合わせて売上が大きく伸びるタイミングがある
気候変動に伴う季節イベント・季節現象の状況変化にも注視を
近年、加速する気候変動は、季節イベントの時期や賑わいの規模に影響を及ぼす場合があります。具体例でその状況を簡単に解説します。
- 花火大会
盛夏期の暑さが非常に厳しくなっていることから、日中時間帯の場所取り・混雑時の熱中症リスクや、急なゲリラ豪雨の発生による開催直前キャンセルリスクを回避するため、春や秋に開催期間をずらす地域が増えてきています。
- 運動会・体育祭
春先から夏のような暑さになることが増えていること、非常に厳しい暑さの期間が9月、10月まで長引いていることから、運動会・体育祭の開催時期を10月後半あるいは11月にずらす地域が増えてきています。
- 花見(桜)
地球温暖化や春先に高温傾向が続く年が増えていることから、全般に開花時期、見頃時期が早まっています。特に東北~北海道の花見スポットを巡る観光ツアーは、それを反映して、ツアーが組まれる期間が以前と比べて半月程度早まるケースや、開催時期と桜のピーク時期が合わず、ツアー自体がキャンセルされるケースがあります。
まとめ
それぞれの季節イベントは、年に1回、しかも関連商品の大きな売上が期待できるのは正味半月程度のものもありますが、小売業にとっては年間の売上に占める割合を考えると非常に重要です。確実に売上を達成し、ロスを最小限に防ぐため、ぜひ気象情報と当該期間の購買データを積極的に活用ください。
次回第6回は、1月に掲載いたします。1年の始まり、マニュアルを読み直す感覚で、改めて店舗オペレーション上の気象情報(主に短期的な予報)の利活用に関する基本的な内容をまとめます。
〇True Dataの小売業向けソリューションはこちら https://www.truedata.co.jp/service/retail/
〇「常盤勝美のお天気マーケティングブログ」過去記事はこちら https://www.truedata.co.jp/blog/category/weather_marketing
〇「小売企業のための気象&購買データ活用法」バックナンバーはこちら 第一回 「気温40℃が夏の常識に!? 小売業は「地球沸騰化」にどう立ち向かうか」 第二回 「長期予報はもっと使える! 営業企画や販売促進への活用法」 第三回 「2週間予報や、過去データを活用した販促のやり方」 第四回 「気象×購買データのエビデンスに基づいた販促で、訴求に説得力を」
〇コンサルティング、講演・セミナーのご依頼、True Dataへのお問い合わせはこちら https://www.truedata.co.jp/contact 本稿の内容をもっと詳しく知りたい、自社の業務に落とし込んだ具体的な内容を聞きたいというご要望がありましたらお気軽にお問合せください!

株式会社True Data 流通気象コンサルタント 常盤 勝美
〈プロフィール〉
大学で地球科学を学び、民間の気象会社で約20年にわたりウェザーマーチャンダイジング関連サービスに従事。2018年6月、True Dataへ入社し、気象データマーケティングを推進。著書に『だからアイスは25℃を超えるとよく売れる』(商業界)など。気象予報士、健康気象アドバイザー。

