3年ぶりに「寒い冬」の可能性?!気温低下で売れる商品とは

こんにちは。流通気象コンサルタント・気象予報士の常盤勝美です。本来10月は、上旬に秋の長雨が終わり、移動性高気圧に覆われて全国的に晴れる日が多い時期です。最高気温は北日本で15℃から20℃の間くらい、東日本~西日本では20℃から25℃の間くらいで、暑すぎず寒すぎずちょうど良い快適な気候、運動会、遠足など屋外行事が多く行われる時期でもあります。しかし今年、東北~関東では例年より日照時間が少なく雨の多い状態が続きました。通常は10月の祝日である体育の日(2020年からはスポーツの日に呼名変更)が、予定されていた東京オリンピックの関係で今年は7月に移動したため、祝日のない10月となりました。例年に比べて外で体を動かす機会が少なく、10月をあまり満喫できていない気がしています。

気象庁が9月25日に発表した寒候期予報(予報対象期間:12~2月)によると、今冬は東日本~西日本で気温が平年より低い確率40%、平年並と平年より高い確率がそれぞれ30%と、気温が平年より低くなる確率が最も高い予報になっています(図1 )。

図1 気象庁2020年9月25日発表寒候期予報(出典:気象庁HP)

もし寒冬となれば3年ぶりです。一方、北海道では平年並か高めの確率が高く、東北地方では平年並みの確率が最も高くなっています。この背景にあるのは、日本からはるか離れた南米ペルー沖の海水温変動です。ペルー沖では、何らかのきっかけにより一定期間、海水温が上昇あるいは下降することがあります。このようなペルー沖海水温の変動とその際に起こる確率が高まる全世界的な異常気象の関係性は研究が進んでいます。ペルー沖の海水温が平年に比べて一定水準以上に低い状態が続く現象をラニーニャ現象、高い状態が続く現象をエルニーニョ現象と呼びます。気象庁の発表によると、この秋からペルー沖ではラニーニャ現象が発生しているとみられています。1958/59~2012/13年までの55年間でラニーニャ現象が発生していた冬の日本での気温の出現率は図2のとおりでした。

図2 ラニーニャ現象発生時の冬(12〜2月)の天候の特徴(出典:気象庁HP)

ご覧のとおり、ラニーニャ現象が発生すると、冬の気温は低くなる傾向があるようです。このような統計から、今冬の東日本、西日本の天候は、ラニーニャ現象の影響を受けて気温が平年より低くなる確率が最も高くなると考えられます。北海道は気候区分的に寒帯に属しており、そもそもペルー沖海水温変動の影響を受けにくいとされているため、今冬に関してもラニーニャ現象の影響は比較的軽微とみていると考えられます。

以下に、今冬低温の可能性が示唆される東日本、西日本において、流通業界ではどのようなことに気をつけるべきか、ポイントをまとめました。

寒いときほど売れる商品を見極める

冬場の気温が低いと予想されるなら、寒いときほど売れる商品の重要度を一層高めて生産・販売を強化していくのが基本でしょう。具体的にどのような商品が該当するのか、当社の購買データから、購入数と気温との関係に負の相関があるカテゴリ上位を見て改めて確認していきます(表1)。負の相関とは、2つの変数のうち一方が大きくなれば他方は小さくなる関係を示します。この場合、気温が低ければ低いほど購入数が多くなるカテゴリです。

表1 気温と購入個数の負相関ランキング
※データ抽出期間は2018年12月31日~2019年12月29日で週平均値を用いている。食品は全国のスーパーマーケットパネルデータから算出、日用品は全国のドラッグストアパネルデータから算出。気温は東京の最高気温(日最高気温の週平均値)を使用。

食品1位は紅茶、日用品1位は入浴剤

食品において、気温が低くなると最も購入個数が多くなる(気温との負の相関が最も強かった)カテゴリは紅茶でした。ここでの紅茶とはティーバッグや茶葉などで、ペットボトルの紅茶は該当しません。2位のココアも含め、体を温めるためにホット飲料を飲むシーンが思い浮かびます。それ以外にも食品でランクインしたカテゴリは全般にホット飲料あるいは鍋物、シチューなど熱々料理メニュー用の商品でした。一方、日用品での1位は入浴剤でした。夏場の暑い時期は湯船にお湯を張らず、シャワーで済ませる家庭も、寒さが増していくと湯船にお湯を張り、さらに入浴剤を入れるということだと考えられます。それ以外の上位も、寒さ対策、乾燥対策の商品となっています。

相関係数でデータを見るときの注意事項

相関係数を求めることは、2つの変数(今回の場合は気温と購入個数)の関係性を把握するには有効です。少なくともここに掲げたカテゴリは、気温が低い日ほど購入個数が多くなる関係性があるので、東日本~西日本で気温が平年より低くなる可能性が最も高い今冬、生産・販売を強化したいところです。ただし今回は2019年1年分のデータを用いていますので、ピークシーズンとオフシーズンで購入個数が全く異なるものなどは相関係数の値が0に近い(相関が弱い)結果となることがあります。相関係数の値があまり-1に近くなくても、ピークシーズンに向けた例えば10月~12月までの3か月間に絞って相関係数を求めれば、これらのカテゴリ以外にも相関係数の値が-1に近く(負の相関がより強く)、生産・販売を強化すべきカテゴリが見つかるかもしれませんので、そういった分析の仕方もおすすめです。

弊社では2019年7月より、一般財団法人日本気象協会の小売業向け商品需要予測サービス「売りドキ!予報」の全国版を日本気象協会と共同で販売しています。「売リドキ!予報」では、12週先までの気温予測に基づいて、商品カテゴリ単位での需要予測情報を提供しており、具体的な商品の発注仕入れ量や在庫量を調整する際の参考になります。それ以外にも、気象データと購買データを掛け合わせた分析にご興味のある方はぜひお気軽に当社へお問い合わせください!

株式会社True Data 流通気象コンサルタント 常盤 勝美
〈プロフィール〉
大学で地球科学を学び、民間の気象会社で約20年にわたりウェザーマーチャンダイジング関連サービスに従事。2018年6月、True Dataへ入社し、気象データマーケティングを推進。著書に『だからアイスは25℃を超えるとよく売れる』(商業界)など。気象予報士、健康気象アドバイザー、地球温暖化防止コミュニケーター。