小売企業のための気象&購買データ活用法 第7回     店舗での気象・購買データ活用マニュアル(実践編)

こんにちは。True Dataの流通気象コンサルタント・気象予報士の常盤勝美です。前回に引き続き、店舗の現場で気象・購買データを活用する際の基本ポイントをまとめます。前回は座学的な内容でしたが、今回は店舗オペレーションにつながる実践的な内容を中心に解説します。

事前準備

実践に当たって、改めて気象と売上の関係を把握しましょう。気温が1℃変わるだけで売上が数千万円単位で変動するカテゴリもあります。過去に気象と売上の関係を調べたことがある場合でも、特にここ最近3年間の急速な気候の変化で、消費に新たな影響が生じている可能性があります。ぜひ、直近の気象×自店の購買データを用いて分析を行い、両者の相関性をアップデートしましょう。注目ポイントは、“分岐点温度”です。カテゴリによっては、気温上昇あるいは下降に伴い、特定の温度に到達すると売上の伸びが急変する場合があります。売れ行きが急増する“スイッチが入る”温度といっても良いでしょう。シーズン初めてその温度に到達することが予想される日に、売場にしっかり当該カテゴリが分かりやすく陳列できるか、そのカテゴリの当シーズンの総売上にも影響を及ぼしかねません。

分岐点温度は、以下のように横軸を気温、縦軸を売上とした散布図を作成し、売上の傾きが変化する温度を読み取ることで求められます。温度の読み取りは、目見当でも良いでしょう。

図表1 使い捨てカイロの売上と気温の関係図を利用した“分岐点温度”の見極め方

気象連動型売場の考え方

ここでは、季節による棚替えとは別の、日々の気象条件の変化に基づいた売場対応について解説します。

オペレーションをシステマチックに行うのであれば、下表の参考例ように、気象条件に基づく発動条件、オペレーション内容、対象カテゴリを事前に設定しておくと良いでしょう。

気象に基づく販促策

気象の変化はお客様のニーズに影響を与えますが、時としてお客様もはっきり意識していないことがよくあります。そのような無意識なニーズ変化を意識させ、より確実な購買行動につなげるための後押しとして、販促策は非常に重要な役割を果たします。

ここでは、店頭POPとアプリ(会員に対する情報発信)という代表的な2つの販促施策について解説します。

  • POP

当日の気温予報に合わせ、ターゲット商品を使ったおすすめ献立(レシピ)を適宜差し替えるオペレーションがおすすめです。おおよその季節によってパターンをいくつかあらかじめ設定しておくと良いでしょう。下表に簡単な例を紹介します。

  • アプリ(会員に対する情報発信)

アプリの最大のメリットは、即時性と訴求先に合わせた発信情報のカスタマイズです。気象情報は、その効果を最大限活用するために適したコンテンツです。例えば、一般に来店客数の減少につながる「雨」が予想される場合、臨時にクーポンを発信して来店を促すことができます(ただし来店に安全上の大きな支障がないレベルの雨が予想される場合)。

また同一チェーン内でも、店舗によって予想される天気や気温などの違いから、オススメ商品を出し分けることも可能です。

実践時の運用ルール

店舗側で過度の負担がかかることで、それ以外の業務の進捗速度や精度が低下しては意味がありません。また、最終判断が担当者の熟練レベルに依存するようであれば、施策に対する効果にブレが大きくなり、正しく事後検証できなくなります。気象×購買の客観的な分析結果と判断基準から、誰でもシンプルに均一にオペレーションができるようにすることが第一のポイントです。

気象条件をきっかけに行った施策が、毎回必ずしも功を奏するとは限りません。想定とは異なる結果となることもあるでしょう。そんなときに振り返ってナレッジとして積み上げ、次回につなげるフローを確立していただきたいと思います。むしろはずれた時こそ、様々な仮説が眠っているはずです。次回につなげるノウハウをどんどん蓄積していってください。

まとめ

気象×購買データを活用する一番の目的は、お客様のニーズの変化を予見し、適時・適材・適量の商品を売場展開することでお客様からの支持や信頼を獲得し、店舗のプレステージを上げることです。結果的にニーズの低い商品の廃棄を減らし、ニーズが集中する商品の機会ロスを最小限にすることができるため、売上・利益が向上につながります。

売上・利益の最大化を第一目標とすると、単価や利益率の高い商品が優先されがちとなり、「お客様が欲しい商品が並ぶ売場」から「お店が売りたい商品が並ぶ売場」へと変化し、満足度が低下するおそれがあります。キーワードは、「データ活用はお客様への『おもてなし』を科学すること」です。

十分心得ていることとは存じますが、改めてここで認識を新たにしていただければ幸いです。

次回第8回も、店舗オペレーション関連ということで、気象を使ったレイバースケジューリングの考え方について、ポイントをまとめます。

※抽出データ                                   株式会社True Data「Eagle Eye」に搭載されている「使い捨てカイロ」カテゴリ(業態:ドラッグストア、エリア:全国、期間:2022年5月2日~2024年4月28日、データ抽出日:2024年5月13日)の購買指数(購買指数は週別購入個数の当該期間平均値を1としたときの比率)。

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〇「常盤勝美のお天気マーケティングブログ」過去記事はこちら  https://www.truedata.co.jp/blog/category/weather_marketing

〇「小売企業のための気象&購買データ活用法」バックナンバーはこちら                 第一回 「気温40℃が夏の常識に!? 小売業は「地球沸騰化」にどう立ち向かうか」              第二回 「長期予報はもっと使える! 営業企画や販売促進への活用法」                    第三回 「2週間予報や、過去データを活用した販促のやり方」                        第四回 「気象×購買データのエビデンスに基づいた販促で、訴求に説得力を」                              第五回 「季節イベント・季節現象との付き合い方」                            第六回 「店舗での気象・購買データ活用マニュアル(基礎編)」

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株式会社True Data 流通気象コンサルタント 常盤 勝美
〈プロフィール〉
大学で地球科学を学び、民間の気象会社で約20年にわたりウェザーマーチャンダイジング関連サービスに従事。2018年6月、True Dataへ入社し、気象データマーケティングを推進。著書に『だからアイスは25℃を超えるとよく売れる』(商業界)など。気象予報士、健康気象アドバイザー。