2019年度から当社が力をいれている地域活性化の取り組みについて森田悦子ライターにご取材いただきました

地方創生とグローバル展開支援を両輪で
データ活用で社会を変えるTrue Dataの挑戦

 いつ、どこで、どんな人が、何を買っているのか――。全国のスーパーマーケットやドラッグストアで日々繰り返される消費者の買い物をデータ化すると、ビジネスチャンスが見えてくる。
 国内最大規模となる延べ5000万人分の商品購買情報(ID-POS情報)をもとに、データマーケティングサービスを提供するTrue Dataは、ベンチャーながら業界をリードする存在だ。
 こうした購買データは、ネット通販の領域であれば比較的容易に収集できるが、実店舗での情報をこれだけ大規模に保有する企業はほかにない。商品開発や生産計画に役立てたいメーカーや、効果的な仕入れやディスプレイを狙う小売店、広告効果を検証したい広告代理店などから圧倒的な支持を集めている。

■「勘」と「経験」からデータ活用へ、地方企業のマーケティングを支援

 そのTrue Dataが2019年6月、山形県酒田市と地域活性化に向けたパートナーシップ協定を締結した。ビッグデータを活用したマーケティングという最先端のICT技術を扱う企業が、なぜ今、地方なのか。True Data社長の米倉裕之氏は、その狙いをこう説明する。
「東京への一極集中と地方の疲弊が叫ばれて久しいけれど、データを活用すれば、地方はまだまだ新たな富を生み出せます。データ活用は、地方創生の切り札のひとつになり得るのです」
 米倉氏は、データを活用した地域活性化の手段のひとつに、地域事業者のビジネスサポートを挙げる。
「日本企業はデータ活用への意欲が他の先進国と比べて乏しく、特に地方企業では勘と経験を頼りに経営判断する企業が多い」
 データを使わない理由としては、第一に『どう使えばいいかわからない』、第二に『メリットがよくわからない』、そして三番目に多いのが『データを使える人がいない』という調査結果があるという。
 そこで同社では、予算や人材に限りがある中小企業向けに、データ分析をしたことがない人でも簡単かつ安価に消費者購買データの分析と活用ができるサービス「Dolphin Eye(ドルフィンアイ)」を提供するほか、ビッグデータを掛け合わせて町丁目レベルで消費者の嗜好を把握できる「DataCOLORS(データカラーズ)」というサービスも19年1月にリリースした。
 DataCOLORSでは、新商品を購入する人の多さを示す「アーリーアダプター指数」や、お買い得や特売への反応度を示す「価格センシティブ指数」など7種類の指数を設定。どのエリアにどんな商品やサービスの広告を打てば最も効果的か、といったことが瞬時にわかり、より効果的なエリアマーケティングを可能にする画期的なサービスだ。
 同社ではすでに、酒田市内の地場食品メーカーなどに対し、データ活用に関する個別のヒアリングをスタートしている。酒田市が持つ豊かな地域資源や魅力ある商品が、望む人のもとへより効果的に発信される日がそこまで来ているといえる。


■データ活用は地方で新たな雇用を生み、ワークスタイルを変革する

 米倉氏はさらに、「データを活用して、地域に新たな産業や雇用を生み出したい」と話す。
「当社のデータ処理の一部は、ベトナムで行っています。データに距離は関係ないので、東京にいなくてもできるからです。ニーズが高まっていくビッグデータの処理や分析プロセスの一部を、これからは地方企業や人材に担ってもらうことは十分考えられる」
 データの収集から活用までの過程は、必ずしも高度な専門性が求められる業務ばかりではない。プロセスを細分化することで、必要なスキルのハードルは下げることが可能だ。空いた時間を有効活用できるような業務もあるので、こうした仕事を地方の企業や人材に担ってもらうというアイデアだ。
「地方にはさまざまな事情で就業できていない優秀な人材がたくさんいるうえ、本当は地元で働きたいのに仕事がないばかりに都会で神経をすり減らす人もいます。生まれ育った土地や自然豊かな地域でいきいきと働ける新たなワークスタイルは、ビッグデータの分野から提供できると思っています」
 また、データを使える人材がいない、という課題を解決するため、同社では人材教育にも取り組む。2018年には、地域産業活性化を担う人材育成を目指す「ビッグデータマーケティング教育推進協会(通称Dream)」を設立し、米倉氏は専務理事として活動をリードしている。ビッグデータの人材というと、大学院レベルのデータサイエンティストばかりがフォーカスされがちだが、データを使ったマーケティングの実務者である「データマーケター」を専門学校で育成し、地域の産業で活躍してもらおうという試みだ。「育成するのは、データを活用することで生産性や業績の向上に貢献できる人材を想定しています。地域の専門学校の卒業生は地元企業に就職することが多く、こうした人材がビジネスの現場で活躍することで地域活性化も期待できます」


■日本の地域にしかできない、最先端の実証実験ニーズに注目

 米倉氏が考える地方創生の手段はまだある。データを活用した実証実験の誘致だ。
「都市部と違ってコンパクトな地方は、少ないコストで多彩な実証実験が可能です。たとえば、特定の消費行動と健康に何らかの関係はあるのか、といったことをデータを使って検証する取り組みに意欲を持つ企業は数多くあります」
 世界に類を見ないスピードで少子高齢化が進む日本の中でも、地方は都市部に先行して高齢化が進む。こうした地域での実証実験は、国内のみならずグローバル企業からも強いニーズがあるという。北欧の小国であるエストニアが、あらゆる行政サービスをオンラインで完結する世界最先端の電子政府として世界中の注目を集めているように、日本の地域だけが世界へ向けて発信できる情報はとてつもない価値を持つ可能性があるのだ。
 酒田市との協定にも、酒田市内事業者の販路開拓等の事業展開のサポート、教育機関と連携した人材育成のほか、市のオープンデータ等を活用した大手企業の実証実験を行うことで、酒田市内事業者と地域の活性化を目指すとしている。ビッグデータで地域創生に活路を求める声は、酒田市以外にも全国の自治体からTrue Dataのもとに届いており、「こうした地方支援の取り組みを広げていきたい」と米倉氏は意欲を燃やす。

誰でもビッグデータの恩恵を受けられる社会に

 地方創生に向けた活動に力を入れる一方で、True Dataは世界を見据え、グローバル展開に向けた布石を打っている。
 2018年には、世界最大のマーケティング調査会社ニールセンの日本法人であるニールセンカンパニーと資本業務提携を結んだ。ニールセンは小売企業向けソリューションをグローバルで展開する企業だ。True Dataが持つ消費者購買データとマーケティング知見を合わせることで、顧客企業のビジネスを最適化するサービスを協力して提供する。True Dataも、ニールセンの持つグローバルな知見を取り込み、海外展開を加速したい考えだ。
 瞬時にどこへでも送れるデータは、容易に国境を超える。国内で培ったデータ収集と分析、活用のノウハウは、日本以外の国でも展開できると米倉氏は言う。
「世界各国でグーグルやフェイスブック広告のビジネスが展開されているように、同じプラットフォーム上であれば多言語化するだけでグローバル展開することは可能になります」
 True Dataが目指すのは、必要とする人や組織がいつでもデータを活用できる社会だ。すでに中小企業向け商品は月額数万円という価格を設定しているが、米倉氏が思い描くビジョンは、だれもが手が届くデータ活用プラットフォームの構築だ。
 「ビッグデータの恩恵を、資本力を持つ先進的な大企業が独占するようでは意味がない。インターネット検索が誰でもできるように、個人商店から一般の生活者まで、あらゆる人がデータの恩恵を受けられる社会を実現したい」
 ビッグデータは地方を救い、世界を変えられるのか。米倉氏とTrue Dataが切り拓く、新たな道に期待したい。

森田悦子さんプロフィール
地方新聞社会部記者、編集プロダクションを経て独立。主な執筆分野はビジネス、金融経済、資産運用、年金、社会保障など。新聞、雑誌、ムック、ウェブメディアなどで取材記事やインタビュー、コラム、ルポルタージュを寄稿